しゃべくり007で見せた、有田哲平の空気を作る力

 しゃべくり007は「フリートークのプロレス」において使われる技術を追求していると前に書いたが、その中でも、最近ナチュラルエイトへ事務所移籍をした、くりぃむしちゅーの有田はすごい。その技のすごさが如実に現れた場面があったので紹介しようと思う。 しゃべくり007にガレッジセールがゲストで来た回。この動画の4:45以降を見てもらいたい。
 まずくりぃむ上田が「デビュー当時のネタを見たい」とガレッジセールに振る。すると客も周りの芸人も盛り上がる。ここで有田は大きな声で「あ〜! 見たい見たい!」「アレでしょアレでしょ?」と言い、盛り上げる。こうなると、その場はやらなければならない空気になる。こういうことをやっている芸人がこの中で有田だけという時点で、かなり空気を作る芸人であるということが分かるが、もっとすごいのはここからだ。
 ガレッジセールがネタを終える。そのあと少しトークがあり、上田が次の企画へ進行しようとしたとき。だいたい6:25あたり。ガレッジセールゴリが「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと」と、止める。そして、「デビュー当時のネタやるのって、僕らだけなんですか?」と言う。そうなると客も盛り上がる。だれかがまた、デビュー当時のネタをやらなければならない空気になる。さらにそこで「なに逃げようとしてるんですか?」「見せてくださいよ」と、畳み掛ける。客も「見たーい!」と大歓声。客を一気に巻き込むことに成功し、もう完全にネタをやる空気となる。「お客さんの声聴いてください、お客さんを喜ばせるのが我々の仕事だよね!?」と最後のトドメ。ゴリによって、完璧に空気が作り上げられたと言ってもいいだろう。
 しかし、ここからだ。だいたい6:58以降。有田の空気を作る力が最大限に発揮される。まずは、「ホラもう上田さん、そこまで言うんですから決めてくださいよ。司会なんですから」と上田に言う。ここではまだこれからどうなるのか分からないかもしれない。「ホラあれやって、ネタルーレット」と、ネタをやる人間を決める権限を相方である上田に譲渡する。ここまでだと、相方に選ばせることで、くりぃむしちゅーにならないようにしているようにも見える。しかしここから、「あ、ガレッジも入ってるからね」と言う。客の笑いと共にガレッジも「えぇ!?」とリアクション。ここで完全に空気が変わる。今までは「ガレッジセール以外の誰かがネタをやらなければならない空気」だったのが、この瞬間「もう一度ガレッジセールにネタをやらせる空気」とガラリと変化した。完璧に出来上がっていた空気をひっくり返した。上田も「当たんなきゃいいんだよ」「完全に公平だから」とこの空気に乗って、確固にしていき、自分の腕でルーレットを行い、当然ガレッジセールに当てる。ガレッジセールも「おい!」とリアクションをし、そこで笑いが生まれる。
 完璧に出来上がった空気をひっくり返すというのはなかなかできるもんじゃない。この動画内で有田は、かなり高度なことをしている。
 ガレッジセールがネタを終えて以降は、「空気作り」の技術の戦いとなっている。いかに、空気を変にせず、笑いも生みつつ、自分の有利な方向に場を持っていけるか、その技の高度なやり合いだ。このようなものが、冒頭に載せた記事にも書いてある、「フリートークのプロレス」において使われる技術の例だ。このような言外での細かい争いや協力が多くあるのは、しゃべく007のおもしろさの一つだ。その辺に注目して鑑賞することで、普通に見るとはまた違う、格闘技的なおもしろさを感じることが出来るだろう。
 それにしても有田の技術はすごい。事務所移籍という行動からは、なにか野心のようなものが見て取れる。これだけの技術の持ち主だ、これからさらに活躍の幅を広めていくだろう。