「あるあるネタはレベルが低い笑い」というのは真っ赤な嘘

 多くのお笑いファンの間では、「あるあるネタはレベルが低い笑い」だということが、さも常識かのように語られている。その文脈はエンタの神様批判であったり、週刊誌の巻末コーナー批判であったり、一発屋批判であったりする。
 それはある面では説得力があるのだが、やはりその背景にある「あるあるネタはレベルが低い笑い」だという常識は、残念ながら間違っていると言わざるを得ない。それは、なぜか。
 エンタの神様批判などで言われるときの「あるあるネタはレベルが低い笑い」だという意見。これは、認識が間違っている。正しくはこうだ。「エンタの神様で発せられるの多くのあるあるネタは、レベルが低い」。「あるあるネタ」だからレベルが低いのではなく、「レベルが低い」からレベルが低いのだ。そのままである。すなわち、言うまでもないことなのである。ゆえに、「エンタはあるあるだからおもしろくない」と言っている人は、その辺のことをしっかり理解できていないといえるだろう*1
 と、書いてもまだ「あるあるネタなんてレベルが低いに決まってるだろ」と思う人もいるのかもしれない。なのでここで、低くないどころか、「あるあるネタ」にはレベルが高いものもあるということを解説しようと思う。
 まずは単純なあるあるネタ、一言系のあるあるネタでレベルが高いものを紹介する。代表例は、いつもここからのネタである。いくつか例を。2001年前後のネタらしいが、あるあるネタが消費されまくった今でも余裕で通用するあたり、彼らのレベルの高さが分かるであろう。代表ネタ「悲しいとき」より。ネタの部分のみ引用。

すました顔で器用に手品をする子供を見たときー
美術の似顔絵の授業で、しわの線までくっきり書かれてしまったときー
学校に行く途中で、そんなに仲良くない友達と会ってしまったときー
物凄い勢いで走っている、軽自動車を見たときー

 上記の例で、単純なあるあるネタでさえも、中にはレベルの高いものがあるということが分かってもらえたと思う。一番上と一番下のなんて、なかなか出来る芸当じゃない。他には中山巧太や、ふかわりょうなども一言系のあるあるネタの名手として挙げられるだろう。
 しかし、あるあるネタというのはそんなに単純なものだけではない。ここが多くのお笑いファンが見落としていることなのだと思う。
 単純でないあるあるネタとは、すなわち「ストーリ性のある、あるあるネタ」だ。それをやっているのは例えば誰か、というのを挙げるだけで、「あるあるネタなんてレベルが低いに決まってるだろ」と思っている人の大半は口を閉ざすしかないであろう。それほど、お笑いファンの間で「レベルが高い」ということになっているような芸人が、「ストーリ性のある、あるあるネタ」を演じている。
 その代表は、友近東京03柳原可奈子だ。挙げた組は「ストーリ性のある、あるあるネタ」をメインでやっている。ネタの多くがそれを軸に出来ている。さらに、「ストーリ性のある、あるあるネタ」も多くやり、そうではないネタも多くやる、という組を挙げるなら、松本人志バナナマンなどである。このように、そうそうたるメンバーが「あるあるネタ」を肝に据えたネタを作っているのである。
 特にここで強調したいのが「松本人志」である。なぜなら、「あるあるネタなんてレベルが低いに決まってるだろ」と思っている人には、松本ファン*2が多いのではないかと感じるからだ。その松本人志あるあるネタを用いたストーリー性のあるネタを作っているいうことを強調したいのだ。
 しかも、そのネタというのは松本人志自身が良いネタだと自信を持つネタであり、お笑いファン界隈でも評価の高いネタなのである。それは、VISUALBUMの「古賀」である。
 あのネタの発想は「こんなやついるよな」という所が肝であり*3、「こんなやついるよな」という発想の仕方は、あるあるネタのそれと同じである。
 この、「こんなやついるよな」というような発想が肝であるという部分が、上記で挙げたほかの芸人にも当てはまることは、容易に理解できるだろう。友近の場合、少しずれて「こんなやついそうだよな」というネタも多いが、それでも「あるある」が根っこにあるという基本は同じである。
 それでもまだ「あるあるネタなんてレベルが低いに決まってる」と言うのであれば、上記の芸人全てをレベルが低いといてしまっているのと同義である。
 このように、しっかりと考えていくと、あるあるネタというのは決してレベルの低いものではなく、むしろ有効に活用すれば非常に強力な武器となることが分かる。「あるあるネタはレベルが低い笑いだ」なんていう、くだらない凝り固まった偏見は捨てて、澄み渡った視界でしっかりと焦点をあわせてお笑い見るべきであろう。

*1:ちなみに、ここでいう「レベルが低い」の定義は「発想として浅い」すなわち「少し考えれば思いつきやすい、月並み、陳腐」であるかどうか、また、「過去に出尽くしていないか」というところに準拠するものとする。

*2:信者とまではいわずとも

*3:他にも肝はあるけどその辺は省略