音楽通と思われるための5段階の解法(上級編)

 皆さん、さまざまなサービスのプロフィールの欄にある「好きな音楽」や、インターネットの掲示板などで好きな音楽を聞かれたとき、なんと書いていますか? そのとき、「なんて答えたらかっこいいかなぁ、本当の通っぽいかなぁ、尊敬されるかなぁ」と、考えていませんか? そう考えているあなたに朗報です。ここで、どのように書けばその目標が達成されるかが、明らかになるのです。解法は段階に分けて紹介するので、途中を変えることで応用も自由自在です!

段階その1「挙げる数」

 まず最初に考えるべきは「いくつ名前を挙げるか」です。これを決めないことには戦略を立てるに立てられません。大きな枠組みから考えていきます。
 ここで考えるべきは、好きな音楽を挙げる際、一つだけドンと挙げるのが効果的か、はたまた十、二十個挙げるのが効果的か、などということです。
 まず一つや二つだけ挙げた場合のことを考えてみましょう。この場合、融通が利きません。不特定多数の人間に見られるため、少ないアーティストではその多くのニーズに対応しきれないのです。二つミュージシャンが書いてあって、そこに一つも好きなミュージシャンがいないよりは、たくさん書いてあった中に一つでも好きなミュージシャンがいたほうが好感が得られるのです。すなわち、問題が発生しないレベルまで、できるだけ多くアーティストは挙げた方がよいと思われます。
 では、いくつまでなら問題が発生しないか、というところです。多く挙げた際に最も起こりやすい問題は「こいつたくさん挙げたいだけだろ、音楽知ってるアピールかよ」と思われてしまうことです。そう思うハードルは人それぞれですが、十などとなってくるとかなり多くの人間がその感情を抱きます。少ないと六つ程度で思う人もいるかもしれません。その辺のことを考慮すると挙げるミュージシャンは四つから六つ、多くても七つ程度に収めるのが得策といえるでしょう。

  • 挙げるミュージシャンの数は五つから七つ

段階その2「邦洋のバランス」

 次に考えるべきは邦楽と洋楽をどのくらいのブレンドでませるか? というところです。
 まずNGなのは「全て邦楽」と「全て洋楽」です。これはどちらにしても「頭の固い」という印象を与えてしまいます。また、挙げるミュージシャンにもよりますが、全て邦楽だと「視野が狭い」、全て洋楽だと「詳しいアピールしたがり」と思われてしまいがちです。それは避けるべきです。そこで、そうならないように、良いバランスでブレンドすると、「邦洋にこだわらず、『好きな音楽』を聞いているんだな」という印象を与えることが出来ます。
 良く見るバランスとしては邦8洋2近辺があります。これに共通するのは「マイナーメジャーな邦楽」と「メジャーメジャーな洋楽」という組み合わせであることが多いというところです。そのため、このバランスにしてしまうと、挙げるミュージシャンにかかわらず、少しだけ「厨二病」的な印象を与えてしまうことがあるのです。洋楽がとってつけたような印象になるのです。よって、これはダメです。
 ここで考えられるのは邦5洋5近辺、邦2洋8近辺です。前者は弱点がなく、無難といえる構成です。後者は、場合によっては邦楽がとってつけた印象になったり、「詳しいアピール」のように見られることもありますが、うまいこと行けば嫌味なくカッコイイ、通っぽい印象を与えることが出来ます。挙げるミュージシャンが六つの場合、邦一つ〜三つ、洋三つから五つといったところがベストでしょう。
 また、これはあくまで目安であって、作戦によっては柔軟に変更することも大切だと言うことは忘れないでおきましょう。

  • 邦洋のバランスは邦5洋5近辺または邦2洋8近辺

段階その3「知名度の配分」

 次に考えるべきは知名度の配分です。ミュージシャン挙げる際、高い知名度のミュージシャンをいくつ挙げるか、逆に低い知名度はいくつにするか、などを考えます。
 というか、段階その2の「邦楽」を「メジャー」に、「洋楽」を「マイナー」に置き換えてみるとかなりのところまでつじつまが合うので、そのように考えてみましょう。
 まずNGなのは「全てメジャー」と「全てマイナー」です。前者は当然ですね。「あえて」のメジャーであっても、それが通用するのは自分のことを良く知った相手のみです。後者だと、「詳しいアピールしたがり」と思われてしまいがちです。と言うような部分は段階その2と共通していますね。
 しかし、少し性質の違う点もいくつかあります。
 多くの人は好きなミュージシャンを挙げるとき、マイナーなものを挙げるなら全てマイナーにしがちです。なので、知名度の場合、超メジャーなミュージシャンを一組入れるだけで、随分と大きな効果が挙げられるのです。5〜7つという少ない枠のため、できるだけ「メジャーなのも受け入れるぜ」的な効果のミュージシャンは、最小限にとどめるべきなのです。よって、超メジャーに枠を一つを使います。
 残りの枠に配分すべきは「音楽ファンじゃなくても割と知られている程度の知名度(知名度大)」「一般的な音楽ファンならまず知っている程度の知名度(知名度中)」と「コアな音楽ファンならまず知っている程度の知名度(知名度小)」と「コアな音楽ファンでも結構知らない程度の知名度(知名度極小)」の配分です。まず、知名度大は必要ありません。超メジャー枠の働きでメジャー受け入れ態勢をしっかりと示せているからです。ちなみにこの知名度大にはくるりなどが相当します。
 中、小、極小の配分について考えましょう。仮にミュージシャンを六つ挙げるとすると、超メジャーに一つ裂くので、残りの枠は五つとなります。まず、知名度中は一つです。超メジャーの役割とかぶる部分があるから、そんなにたくさん書く必要はありません。知名度小、極小の配分は残りの4つで1:3、2:2、3:1、どれでもよいでしょう。これは、挙げるミュージシャンや作戦などによって柔軟に対応していきましょう。

  • 超メジャー1、知名度大1。残りを埋めるときは、知名度小と極小の両方を使う

段階その4「具体的なミュージシャンを考える」メジャー編

 ここからが本番です。これまでの段階で出た結論を元に、実際のミュージシャンを挙げて実際に考えて見ましょう。ここで忘れてはならないのが、今までの段階で出た結論はあくまで目安であって、作戦によってはそれを無視することで、より大きな効果を生むこともあるということです。
 ここでは挙げるミュージシャンが六つ、邦二つ、洋四つということをうっすらと考えながら進めて行きます。そのとおりになれば良いけど、まあ、ならなくてもいいや、くらいの縛りと考えてください。

「超メジャー」枠

 超メジャー枠に誰を入れるか、です。邦楽で考えられるのを挙げていくと、サザンオールスターズMr.ChildrenスピッツBUMP OF CHICKENスキマスイッチいきものがかりGreeeenなどです。洋楽だとThe Beatles、マイケルジャクソン、アヴリルラヴィーンなどですね。
 まず思い出すべきはこの枠の目的は「メジャーなやつだって受け入れる」という風に思わせるため、という部分が大きいということです。そのため、実はここに挙げるべきなのは「専門家やネットで音楽的に評価がそこまで高くはないもの」なのです。そのため、ここでうっかりマイケルジャクソンやビートルズを挙げてしまうと、このあとに支障をきたしてしまいます。とはいえ、逆にボロクソに評価されているものを挙げるのもやりすぎです。さらに、新しいバンドなどだと、「浅さ」のようなものを感じさせてしまう場合が多くあります。そのため、ここに挙げるべきで最適なものはMr.Childrenスピッツサザンオールスターズなどだと言えるでしょう。

「知名度中」枠

 この知名度中は、邦楽でいうと多くの「ロキノン系」と呼ばれるタイプのバンドがそれに当たります。ストレイテナーフジファブリック凛として時雨the HIATUSなどです。これらのミュージシャンたちは、音楽的にどうだとかは関係なく「青いくてダサい」のように見られがちだし、ロキノン系というだけでダメだと言う人も多くいます。そのため、この枠は洋楽にしておくことが無難です。洋楽の場合、日本での知名度中は欧米ではかなりの知名度のミュージシャンとなります。OasisRadioheadWeezer、Offspring、Queen、The Strorksなどがそれに当たります。この枠ではOasisRadioheadWeezerQueenなどの音楽的評価がかなり伴っているものをチョイスするといいでしょう。
 他の戦略としてはコーネリアスなどの世界的に評価が高い日本のミュージシャンを入れるというのもあります。

「知名度小、極小」枠

 ここからがミソです。まずここで一つ入れておくべきものは、「日本アンダーグラウンドシーン」のミュージシャンです。INU三上寛、非常階段、灰野敬二Merzbow村八分などがこれに当たります。これは知名度小〜極小に当たると考えられます。これらは音楽雑誌などでの音楽的評価が相当高く、音楽性も独自なものが多いため、一つ入れておくだけでかなり大きなアクセントとなります。ここで一つ注意すべきは、灰野敬二Merzbowをチョイスした場合、少々やりすぎと思われることが多いということです。その二つを書くのは、バランス感覚に自信がある人限定です。この中で無難なのはINU村八分でしょう。
 次に考えるべきは、ジャズアーティストです。一つジャスアーティストを入れることで音楽の広さをアピールすることが出来ます。ここで重要なのはマイナーなアーティストを選ばないことです。ただ「知らない」と思われたら意味無いですし、ただ通ぶりたいのようにも思われがちです。Albert AylerJohn Coltraneなど、ジャス界では有名な人でもです。それよりも、メジャーだけどちょっとマイナーくらいが丁度いいです。Keith JarrettChick Coreaなどが丁度いいでしょう。下手すればMiles Davisでもいいかもしれません。
 残りはより書くことで効果の高いミュージシャンをチョイスすることが重要です。もしくは、普通に自分が一番好きなミュージシャンを書くのがいいかもしれません。ちなみに六枠ということでしたらあと二枠です。特に決まった狙いがなく、ある程度自由に書ける枠がが二つというのはなかなか丁度いいですね。
 と、この枠は四枠だと書きましたが、残り二枠はそこまで「知名度小、極小」にこだわらず考えてみた方がいいかもしれません。よって、ここからは「フリー枠」と名づけて考えていくこととします。

フリー枠

 フリーとは言っても、ここでもさまざまなことを考える必要はあります。単純にいけば「書くことで効果の高いミュージシャンをチョイスする」という作戦ですが、他にも例えば「The Beatlesを目立たせて入れる」という作戦や「あえて有名な邦楽をたくさん書く」という作戦、「日本アンダーグラウンドシーンをたくさん書く」という作戦、「ジャズやエレクトロニカに特化する」という作戦、「洋楽の若い新鋭のバンドを書く」という作戦、いろいろとあります。それらに優劣をつけるのはとても難しいです。そこは各々の狙いを考えてチョイスするべきです。
 この中では「書くことで効果の高いミュージシャンをチョイスする」という作戦が基本です。しかし、フリーとなるとどれが効果的かわからない……、と言う人もいるでしょう。では、参考のために、殺傷能力が極めて高いミュージシャンたちを紹介します。これを書くだけでぐっと全体の破壊力が増す、きわめて使いやすく便利なリストです。もし、この通りの作戦じゃない作戦を使ってみたとき、「う〜ん、何か足りない・・・」と思ったなら、このリストからチョイスしてみるといいかもしれません。

  洋
The Zombies 、Frank Zappa 、Velvet Under Ground 、Brian WilsonNeil Young
  邦
Fishmans 、After Dinner 、さかな 、羅針盤 、溶け出したガラス箱

 いくつかを説明すると、The Zombiesはアルバム二枚だけで解散という伝説性、Oasisのフロントマンに絶賛されるという同業者からの評価、CMソングなどにもなるほどのポップさの割の知名度の低さなどから有効です。Frank ZappaはJim O'Rourkeなどと共通する天才、奇人的なイメージの中、現代音楽などもカバーするなど少し浮いた存在である点、超がつく多作で死後も作品がリリースされるということでの良いイメージ、などから有効です。Fishmansはフロントマンが若くしてなくなってしまったという伝説性、多くのアルバムが評論家の評価が非常に高い点、さらに、ミュージシャンからの評価も非常に高い点などから有効です。リストに挙げたミュージシャンたちは、2chなどのコミュニケーションサイト、多くのレビューサイトなどでも絶妙で安定した評価を得られています。

段階その5「書く順番」

 これで仕上げです。ここまでで行った段階で書くアーティストがほぼ決定しました。しかし、ここで油断してはいけません。仕上げとして、書く順番にも気を払わなければなりません。
 これにはこれだという正解はありませんが、最初に書くアーティストには気を払った方がいいです。例えば上で挙げた「The Beatlesを目立たせて入れる」という作戦を使う場合、The Beatlesは一番初めに書かなくてはなりません。普通の作戦で行くならば、フリー枠、知名度中枠から最初に書くのが無難です。
 また、特に狙いが無い限りは洋楽と邦楽ができるだけ混ざるように書きましょう。そのほうがよりごちゃ混ぜ感を出すことができます。よりごちゃ混ぜ感を出すためには、日本のミュージシャンならできるだけ日本語表記のミュージシャンを選ぶべきかもしれません。

  • 最初に気をつける
  • 日本のミュージシャンなら日本語表記のミュージシャンを選ぶとより効果が高い

最後に

 これまで考えてきたことを元に回答例を書いておきます。

Q,好きなミュージシャンは?
A,RadioheadFrank Zappa村八分Keith Jarrettミスターチルドレン、The Zombies

 これをあるブログに書いてあった「好きなアーティスト」のリストから書いてある順に六つ抜き出したものと比べてみましょう。

Q,好きなミュージシャンは?
A,中村一義七尾旅人、BOaT、OasisJellyfishRadiohead

 洗練され具合が段違いですね。後者は書く順番にもこだわりがなく、幅が狭いと感じさせる内容です。それに比べて前者は知名度のバランスも良く、幅広い音楽性を感じさせますね。「Mr.Children」を日本語で書くことで英語だらけになることを防いだのも大きなポイントです。これがあるとないとでは見え方が大きく違うでしょう。
 後者をどこのブログから引用したか、は絶対に秘密です。このブログを読み尽くせば分かるかもしれませんね。
 ではみなさんも「好きな音楽」を書くことがあったとき、これを思い出してぜひ最高の回答をして、見た人にどんどん本当の通っぽいなあと思われてください。期待しています。