鳥居みゆき

 私は、鳥居みゆきにきちんと正当な評価をするべきだと考えている。はっきり言って鳥居みゆきはこれまでの女芸人、いや、すべての芸人の中でもトップクラスの才能を持っている。
 紙芝居ネタの考えつくした上でシンプルになったおもしろさや、かくし芸ネタのシュールさとセンス、ウエディングケーキネタのとんでもない発想力と妄想力と構成力と狂気などを見たときは本当に、松本人志に肩を並べるほどの才能を持っているのでは・・・とさえ感じさせられた。
 小噺ネタのあのオチまでに迂回させるにさせるという発想や、木下さんシリーズのうまさとアホらしさや、「砂噛む思いで泥を飲む」などの矛盾しているようでしてない歯がゆい言葉や、面白い単語のチョイス・・・語りつくせる気がしない。ここであげたネタを見たことがない人はぜひ見てほしい。

 彼女の発想はブラックなことが多い。人の腹を切ったら子宮に隠れていた人が出てきて、その人の腹を切ったらまた人が出てくる。そしてきったらまた出てくる。そのさまを「マトリョーシカ」とたとえて笑いを取る。妊婦に扮し、おなかの子供に対して「お前の母ちゃんでべそ」「お前の母ちゃん元シノラー」などという。

 ただ勘違いしないでほしいのは、彼女の発想はブラックなだけではないのだ。マトリョーシカという例え自体秀逸だし、「お前の母ちゃん元シノラー」というのは「お前の母ちゃん〜〜」の〜〜を埋めろ、という大喜利で出したとしてもすばらしい答えだ。 さらに、紙芝居ネタでの何も描いていないのに二枚めくってしまって台詞を言い、「あ、絵と台詞あってない」というように一枚もどしてもう一度台詞を言いなおしたり、真っ白の動く仕掛けのようなものを動かしてみたり。小野寺という名前の「お」を取って「野寺」と呼ぶことで「お茶碗」→「茶碗」のように丁寧でなくしてやる、という発想などとブラック以外の発想もすばらしい。

 また、下ネタも多い。下ネタというのは使い方を誤ればひどいが、逆にうまく扱えればとんでもない破壊力になるものだ。そして鳥居みゆきは下ネタをとてもうまく使っている。水族館でのイルカショーの話(これは書くと長くなるので省略。確かGyaoの「社交辞令でハイタッチ#3」だったと思う)、米屋のコントでの「あなた。これフランスパンね、あんなお堅いフランスパンをこねて、こねくりまわして、しばらく寝かせて、バターを体全体に塗りたくってパンパンパンパンパンパンパンパンよー!」と。アホである。もちろん、いい意味で。

 また、トークでも希有な才能を見せる。頭の回転が速いのだ。そして、言葉のたくわえがものすごい。二個一、プラマイゼロ、無きにしも非ず、馬が合わない、木目調など。その量が半端じゃない上に一つ一つのセンスもよく、さらにアドリブもできるのだ。言葉のチョイスのセンスというのはなかなか鍛えようと思って鍛えられるものではない。
 
 鳥居みゆきがこんなにおもしろい理由はきっと、幼い感性を失っていないから、によるところがあるあろう。あまり気が付かれていないようだが、Gyaoでやっている「社交辞令でハイタッチ」で飛石連休の藤井と話すときには、「みゆきね、〜〜でね、それでね、〜〜なの。」というように、まるで子供のような喋り方になっている。それだけでなく、たとえばテレビが放送終了した後に映し出されるカラーバーや、マトリョーシカたらこキューピー、だるま落としなどをネタに登場させたりと、子供のときにやたら印象に残るもの、本能的に何か頭に残るもの、「人間」の本質の部分(わかってくれるかなこの感じ?)を使用していることが多い。それによって、理論とかじゃなく感覚でおもしろいと思える部分が多々あるのだ。

 ただ、最大の弱点は、分かりにくいこと。特にトークだと、テクニックで笑いを取りにいくことはほとんどなく(ここで言うテクニックとはさんまのようなトーク術)、自分のセンスや発想、言葉のチョイスや、分かりづらいが面白い例え、言葉遊びを頻繁にして笑いを取りにいっている。また、一見その場と関係ないようなことを言っているが、実は考えれば関係しているというようなことも多い。そのため、「分かる人だけ分かる」ような状態(私も一度では把握できないこともある)になっており、テレビなどではキョトンとされることも多くなっている。ただ、そのセンス、発想、言葉のチョイスがお笑いファンをひきつけて離さない大きな要因のひとつとなっているともいえる。
 それを考えると、鳥居みゆきには一人本当にめちゃくちゃ優秀な相方が必要なのではないかと感じる。それも鳥居みゆきのボケのベクトルをしっかり理解でき、かつ頭の回転が速く、センスも有る、という相方が。そうなれば鳥居みゆきがボケたらすかさずそこに突っ込み(説明)を入れ、世間に届けることができる。

そして私が一番心配していることは、その他大勢の一発屋芸人たちと同列に扱われ、消えていくことである。鳥居みゆきという芸人は、現在お笑い界をにぎわせているその他大勢の一発屋たちとは一線を画している。

どうにかこの世界を耐え抜き、我々に新しい笑いをどんどんと提供して言ってほしいものである。