「恐怖」と「笑い」は限りなく近い
私は「怖い」といわれるネタが好きだ。昔、2chに「怖いネタ」を集めるみたいなスレがあったとき、かなり頻繁に覗いていた。最近そのスレが復活したので、それも頻繁に覗いている。ちなみにまとめwikiもある。
私がなぜ、「怖い」といわれるネタを見ようとしていたのか。それは、「怖い」といわれているネタは、おもしろいことが非常に多いからである。
その理由は、一番コミカルな、ベタなボケから離れようとすると、それはシュールとなり*1、さらにそこからまだ追求し、深めていくと、それはどんどんと「ホラー」に近づいていくからである。逆に言えば、「笑い」を追求し、深めようとすると、それは自ずとホラーとなるということである。すなわち、「怖い」と言われているネタというのは、シュールからさらに突き詰めた結果生み出された、水準の高い笑いであることが多いのである。
ちなみに、今のホラー映画が「笑いの最終形」ということではない。ホラー映画は、「びっくりさせる」とかそういったものが多く、笑いを深めたときの「ホラー」というものはほとんど出てこない。また、ホラーとはいったが、笑いの場合、発想やボケが「言うならばホラー、ほぼホラーの領域」なだけで、それで笑えることが重要なのだ。
ベタ シュール ホラー
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この相関図である。
そして、実は現在「シュール」と言われている笑いの多くは、上の図でいうところの「シュールとホラーの間」くらいまで行っている。
※以下、いがらしみきお作「Sink」のいくつかのコマが使われています。核心のネタバレはありませんが、ネタバレが嫌いな人は注意。
そして、笑いとホラーギリギリのものの例を出そうと思う。
いがらしみきおという人が書いた「Sink」というマンガ。これはホラーマンガだ。このマンガのホラーシーンは上の図で言うとかなり右側までよっている。ホラーだから当然なのかもしれないが、それにしたってよく出来ている。
例えばこれだ。
これは家の靴がいつの間にかこうなっているというシーンである。このシーンは怖いシーンなのだが、例えばこれがガキの使いの「笑ってはいけない旅館」で旅館に入っていたらこうなっていた、と想像してみよう。「なんでこんなことになってんねん」というツッコミが聞こえてくる。びっくりした表情で笑いをこらえるガキ使メンバーが目に浮かぶだろう。少し前提を変えるだけで、「恐怖」から「笑い」に変わる。どれだけ隣り合わせになっているかということだ。
また、別のシーン。
これは、家に誰かが忍び込んでいるかもしれない、最近家の様子がおかしい、しかも、息子の様子が異常になってきた、そんな疑心暗鬼の中、家の中に異常がないか調べてみる、そのとき、家のクローゼットを開けたらこうなっていたという恐怖のシーンだ。
りんごに魚が刺さったものがぶら下がっている。これは「恐怖」というフィルターで見ればかなり怖い。しかし、これを、
こうしてみる。一気に「めちゃめちゃシュールでおもしろいボケ」となるのだ。
「笑えるもの」と「怖いもの」は正反対だと思われがちだ。しかし、こんなにかんたんに「かなり怖いもの」が「かなりおもしろいもの」に変化するのだ。
また、同マンガからあと二つ「ホラーシーン」を抜き出してみる。これらは「笑い」というフィルターを通した場合、上の図で言うところのかなり右までいっているものであり、すなわち水準の高い笑いである。
「笑い」と「恐怖」の類似性が分かったもらえたと思う。
「めちゃめちゃおもしろい笑い」を作れる人間というのは「めちゃめちゃ怖いホラー」もつくれるということだ。
さらに、笑いを突き詰めるとホラーになるため、「水準の高い笑い」を作るときに初めから「ホラー」を作ってちょっといじる、という方法論が有効かもしれない。
*1:シュールの意味はいろいろあるけど「板尾係長」に代表される意味での「シュール」である。